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Sound Horizon メジャーデビュー10周年記念作品第3弾 9th Story CD『Nein』 Revo オフィシャルインタビュー

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――Sound Horizon(以下SH)の新作「Nein」は、フルアルバムのStory CDという形では実に4年半ぶりとなります。しかしRevoさんはその間も精力的に活動なさっていましたよね。その期間の経験が、今回の作品に刺激を与えた部分はありますか?
Revo どうでしょうね。Linked Horizon(以下LH)としていろんな作品とコラボレーションすることも多かったですが、その経験がなかったら新作がどう変わっていたかという「もしも」の話は、ちょっと難しいですよね。つまり、現在以外の世界線からしか判断できないと言いますか(笑)、LHをやったからこういう形になったのか、それとも前作からこれだけの期間があれば、自ずとこうなったのかということは、不可分な部分も多いです。ただ、いま質問されて改めて振り返ってみると、音楽に対する力の入れ方は、以前の作品とは少し変わったように思っています。もちろん以前の作品でも力を入れて作っていましたが、音楽のクオリティ自体が上がりました。
――それは作曲の面でも、演奏や録音技術の面でもということですか?
Revo 単純に聴いて、曲として好きか嫌いかだけで判断する人もいると思うので、クオリティが上がったと言われても「何が?」という人もいるとは思いますけどね。だけど一人の音楽家として、どこまで楽曲の細かな点まで気を配りながら音楽を作り上げていくかという水準は、たぶん以前よりも上がっています。
――なぜLHの経験が、楽曲のクオリティを底上げする結果になったのでしょうか?
Revo LHというのは、あらかじめストーリーのある別作品に楽曲を付けるわけですから、そのストーリーに対して最良の音楽を付けようとするのは当然ですよね。だからこそ、楽曲面が洗練されていく。そうやって音を作ることへのこだわりが増していると、改めて自分自身でストーリーを作るSHに立ち返ってきた時も、やっぱり音楽面は緻密なものにしたいですよね。SHは自分でストーリーを作るのだから、音楽に傾いていた比重をストーリー側に戻そうと考えるわけです。しかし、いったん底上げされた音楽的なクオリティを、わざわざ下げることを考える必要はないというか。
――LHを経てからSHとしてリリースするにあたって、最大の違いは何だと考えていますか?
Revo もちろん、音楽の中にすべて入っていますから「聴いていただければわかります」と言うところなんですが、それではインタビューが成立しないので考えてみましょうか(笑)。やっぱりLHっていうのは、物語の原作者が僕ではないということが一番大きいと思います。だから原作の世界観とかストーリーに対して、くどくならない程度に寄り添いつつ作っているのが、LHの音楽だと思います。それに対してSHは原作が僕なので、どういうふうにやっても怒られないですし、もう物語と音楽が、がっちりと緻密に手を組んだものなんです。音楽を物語に合わせるという感覚よりも、音楽で物語を作ると言った方が近いでしょうか。しかし、物語の要素が大事だからと言って音楽を適当にやっているわけではありません。音楽は音楽として聴けるけれども、その上で物語を載せて、どれだけのことができるか、というものになっている。基本的に引き算の考え方ではないんですよ。何かと何かを足すために、どこかを削るようなことはしない。そのぶん、リスナーの負担は大きいと思います。詰め込まれた膨大な情報量から、すべての音楽的意図、物語的意図を読み取るのは一人の人間には不可能かもしれない。それでも、僕はリスナーを信じてそれを入れます。僕なりのリスペクトと言うか「この程度なら大衆にも理解できるだろう」というような甘やかしはいらないと思っています。それにリスナーは決して一人なんかじゃない。人の心に響くものを作れば、そこにコミュニティが生まれ、それぞれの解釈の相違をも楽しむ豊かな土壌が育まれることをこの10年で確信してきました。聞き易いことを音楽の最大の美徳とするなら、別のアーティストの作品を買った方がいいかもしれません。しかし、それだけでは取りこぼしてしまう豊かな可能性が音楽にはあります。「洗練された大人の美学とは、引き算にこそある」と世の大人達は言うでしょう。ならば、それは別の人に任せればいいかなと(笑)。広い世の中、こういう奴がいてもいいはず。僕は中二病で結構なので、これからも足し算の美学を洗練させていこうと思います。引き算を使わずに、音楽も、物語も両方追求します。
――まさに先ほどのお話でもそうでしたね。LHの活動をやった結果としての音楽的なクオリティを引き算せずに、新しくSHにプラスしていく。
Revo そうすることで、音楽としてもダイナミックなものになっているし、物語としてもより豊かに楽しめるものになる。それらが合わさった時の面白さやカタルシスというのは、たぶん、ここにしかないと思うんですよ。この感覚は、他に世界のどこにもないと思う。好きか嫌いかはリスナーに委ねるとして「みんなを楽しませたい、驚かせたい」という思いでエンタメに関わる者としては、命をかけるに値するフィールドだと自負しています。
――「Nein」はLHの成果が込められているだけでなく、従来のSHにもあったバンドサウンドとストリングスを使った壮大なアレンジも聴き応えが増しているように思います。
Revo LHとして、ゲーム「ブレイブリーデフォルト」やアニメ「進撃の巨人」の音楽なんかをやらせていただいた時に、たぶんシンフォニックな音楽が求められているんだろうなと思ったんです。バンドサウンドが核にありつつ、ちょっとシンフォニックな要素を足していく。まあ、自分がSHとしてそういうものを多く作ってきたからこそ、それを期待されたんだと思うんですけどね。しかし、この数年でオーケストラのコンサートなんかも経験したし、シンフォニックな部分もクオリティが上がってきた。同時にバンドの部分もシンフォニックな要素とよりガツッと噛み合うようになっている。今の僕のサウンドはそうやって洗練されてきたと思うんです。
――しかし同時に、「Nein」は音楽ジャンル的にもバラエティに富んでいますね。打ち込みのリード曲があり、ボサノバ的なアレンジとか、クラシカルピアノを使ったバラード調のものとか、実に幅広いと思いました。
Revo まあシンフォニックな要素だけで組み立てるわけでもないので、たしかにボサノバのようなわりとアコースティックな編成といいますか、ものすごく大きな編成と、小規模で繊細な編成が織り交ぜられていますね。それを踏まえつつ、電子音を意図して配置していった部分があります。音楽の面白さを出したいというか、いわばストーリーだけが起伏に富んでいるわけではなく、音楽も起伏に富んでいるべきだという考え方の、ひとつのお手本みたいなものにしようと思ったんです。それは物語音楽としてSHをやってきた、デビュー以来の集大成みたいなところもあって、「自分が物語音楽と呼んでいるものは、これだよね」という再確認の意味を込めて、こういう内容にしました。
――しかしリード曲が電子音楽というのは、やはりSHとしては意表を突いたアプローチですよね。かつて「Pico Magic Reloaded」などのインディーズ盤ではそういう面も出されていましたが。
Revo まあ自分としては、こういう博打を打つのもけっこう嫌いじゃないですからね。だから聴いてくれる人も、そう簡単に自分たちが求めているものだけがすんなり出てくるとは限らないのを「こう来るかー!」と思って楽しんでもらえたらと思うんですよ。もちろん、アルバム全体を聴けば馴染み深い要素もしっかりと詰まっているはずですし。ただ、久々に10曲以上のアルバムが出るからといって「ほーら、久しぶりでしょ」と、いかにもみんなの好きそうなものだけを出すというのが、そんなに面白いとも思えなかったんですよ。前から言ってることではあるんですけど、10周年だからこそ、ただ単に今までのことを全部おさらいするだけっていうのじゃつまらないなと思って。別に過去を総括して、これを最後の作品にしたいわけじゃないですから、色々な意味で次を見据えたものが含まれていないと。
――フルアルバムとしては前作となる7th Story CD「Märchen」から4年半を経てのリリースですが、そこまで間が空くというのは、ある程度は予期していたことだったのでしょうか? それとも結果的なものですか?
Revo 結果的になった部分はありますね。やっぱりLHでやっている作品は相手があってのものなので、自分だけですべてをコントロールできるわけじゃないんです。だからLHのほうが思ったよりも長期にわたると、SHが多少遅れるっていうのは必然的な流れですよね。身も蓋もない話をすると、今回は9th Story CDになりましたが、実は8th Story CDはまだ出ていないんですよね。実はもともと、どっちが先に出てもいいやと思っていたんです(笑)。ただ9番目よりも8番目のほうが出すのが大変な作品ではあったので、だから先に9番目が出たんですよ。だからひょっとしてLHやっていなかったら、もしかすると8番目の方を先に出してた可能性もありますね。
――なるほど。今回に関して言えば、「Nein」と並行して、8番目の方も構想だけはあったということになるのでしょうか。
Revo 曲としては基本的にほとんど作ってないんですけど、頭の中ではどういう内容にすればいいかというのは日々考えています。僕は、曲自体は作ろうと思ったらわりとすぐ作れちゃう方なんですよ。ただ「これだ!」っていうところに辿り着くまでのフットワークが重いんです。その曲を作る理由を必要としちゃうんですよね。「なぜ今これを作るのか」という動機付けが明確じゃないと、動き出せない。最近気づいたんですけど、むしろ曲はいくらでも作れるみたいなんです。一年中、頭のなかで鳴っているようなものなので、それをいつアウトプットするかというだけの話なんです。でも、いくらでも作れるからこそ「なぜ今このタイミングでこれを作るのか」という理由がないといけない。思いついた曲を片っ端から譜面にしていたのでは、ひとつの人生では足りないことに気づきました(苦笑)。
――Revoさんは、具体的な曲作りの作業においてもそうですか? たとえば「この音色じゃなきゃいけない理由」を必ず意識しているのでしょうか。
Revo すべて明確に理由があります。当たり前のことですけど、必要ないと思うものは入れてないですね。CDというメディアに入れられる情報量も限られているので、いらないものを入れるほどの余裕はないです。僕の音楽にはものすごくたくさんの音が入ってると思われがちなですけど、すべて必要なものなんですよ。ゴチャッとしているように聞こえる部分でも、その感じがほしいから入れている場合すらありますね。まあ中には「論理的には破綻してるけど、この方が気持ちいいから」みたいな感覚的な理由も含まれていますけど、適当な部分は1音たりともないですね。
――ではこの先いろんな作品がリリースされていくのも、やはりタイミングと、それをリリースする理由があるかどうかが重要というところがあるのでしょうね。
Revo そうですね。ただSHを追いかけて、ここまで着いて来てくれた人たちは、そうやってリリースされる作品をじっくりと待つ境地になってると思うんです。もちろん、早く新作が出てほしいという人にはちょっと申し訳ないですけれども。でも僕はこういうエンタメの仕事をしている中で「今が楽しいだけでは不十分なんだ」という感覚が大事だなと思っているんです。まあ、作品として世に出されたその時に楽しくないものは、そもそも商売として成立しないのですが。欲を言うなら、今が終わった後も続く楽しみを控えておきたいのではないかということです。今だけ楽しいわけじゃなくて、この楽しみが終わらずに、ずっと続く。みんな本当は、そういうものこそを期待していると思うんですよ。虚構の世界というのは始まりがあると終わりがあるから、いつかは終わってしまいます。そんなのは当たり前だし、みんなわかっているとは思うんです。だけどやっぱり「終わる」っていうことは寂しいですよね。死に向かうことが定められた人間の性がそう叫んでいるように聞こえます。お祭りは終わってしまうけど、次のお祭りもあるって思えるから、日々の生活が大変でも頑張っていこうと思える。僕の作品についても、そう思っていただけるといいなと思っています。あ、オリンピック的な、ワールドカップ的な気持ちで待っていてもらえると、その間もずっと楽しいと思います(笑)。SHジャパンは次も全力で行きますので!

取材・構成=さやわか