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Sound Horizon メジャーデビュー10周年記念作品第3弾 9th Story CD『Nein』 Revo オフィシャルインタビュー
――新作「Nein」の制作にあたって、メジャーデビュー10周年ということで意識した部分は大きいのでしょうか。
Revo 10周年の集大成という気持ちで取り組んだ作品なので、過去のSHらしい要素をふんだんに入れたつもりです。新しいリスナーが自分の音楽を知ってくれたらいいなというのは、どの作品でも思いながら作っていることではあるんですが、これを聴くことによって、過去の作品にも興味を持ってさかのぼってもらえるんじゃないかという邪な企みは、今回完全に企ててます(笑)。物語音楽って何だろう? 続きものなのかな? 敷居高そうだな? とか、興味は持ちつつもそういった印象で踏み込みづらさを感じている人に、「今からでも遅くないよ」と言ってあげられる10周年にしたいと思っています。今年は積極的にメディアミックスも展開していますし、そういったことが上手く繋がってくれれば嬉しいですね。しかしもちろん、今まで熱心に追いかけてくれた人ほど、楽しい、楽しめる内容にはなっていますよ。普通に聴くだけでもバラエティー感の豊かな作品だと思えるはずですけど、本当に楽しいのは、そこから先の地層を掘っていった時だと思います。
――たしかに今回は、Revoさん自身が過去のStory CDを振り返りながら作られたということが、作品自体から伝わってきますね。
Revo それは完全にそうですよね。まあ9周年ぐらいから、何となく振り返る機会がたびたびありましたけどね(笑)。2013年の「ハロウィンと夜の物語」なんかでも、今までの作品が想起されるような言葉が入れてあったりしましたし。ただ、今回はわりと直球ですね。
――制作にあたっては、今までのStory CDを、改めて聴き直しながら作るようなやり方だったんでしょうか? それともRevoさんの頭の中には、過去のStory CDの内容というのはすべてクリアに記憶されているものなのでしょうか?
Revo 基本的にはすべて覚えているので、イチから聴き直すということはなかったですね。基本的には自分の中に記憶されているものを、今の自分のフィルターを通して出していくという感じでした。ただ一応、間違って覚えてたら事故に繋がるので、ちょっと確認する必要がありそうなところは調べたっていう感じです。
――その際、物語だけでなく過去のサウンド感も意識しながら作りましたか? たとえば同じ音色を使ってみようとか、似たフレーズをあえて入れたりとか。
Revo 似た部分は非常に沢山あると思います。でも全く同じにしようとはあまり思っていないですね。僕はやはり基本的に、昔のものは総じてクオリティが低いと思っているんですよ。だから以前と同じ部分があるとしたら、それはもう何世紀たってもそれがベストと言えるような、普遍的な部分だけだと思います。
――内容についても具体的な物語に踏み込まない範囲で少しだけ詳しく伺いたいんですが、まずアルバムのタイトルが否定辞になっていて、つまりこれは何かを否定するニュアンスを含んだ作品ということになりますね。ただ、先行リード曲である「檻の中の箱庭」でシュレーディンガーの猫の比喩が示唆されているように、それは単純に何かを否定するという意味ではないように感じました。
Revo そこはSHでやっていることと、うまく合致するなと思ったんです。たとえば「ある人物が幸せか、不幸か」みたいなことは、究極言えばその人物を眺めている観測者次第だし、僕自身にだって正解はわからない。SHというのは「だから、皆さんも考えてください」という音楽なんですね。箱の中にいる猫が生きてるのか死んでるのかは、極端に言えば決められない。どちらの可能性も重なり合っている。生きてもいて、死んでもいるとしか言えないのが、SHの物語なんです。さらに言えば、以前の作品なら「死んでいるのは確実だけれども、幸せだったか不幸だったかはわからない」という程度だったんですけど、今回は「生きているかどうか」にまでメスを入れたようなところもあります。
――何が起こったのかも、もう確かではない、みたいな感じがありますよね。
Revo そうですね。シュレーディンガーの猫も現実の話じゃなくて考え方のモデルですけど、つまり頭の中にしかないようなものなのに、現実にその猫が生きているかどうかを考えるというものなんですよね。それをSHの物語に置き換えて考えてみると、最初に物語のきっかけというか世界を作っている存在は僕なんですけど、作品を聴いてくれる人にゆだねた先では、どうとでも解釈することができてしまうはずなんですよ。僕が作ったものを覆してはいけない、否定してはいけないってローラン(※SHファンに対する愛のある呼称のひとつ)たちは思うかもしれないけど、別にいいんじゃない? っていうのが、今回の作品が示してることですね。「この物語は、こういう結末を迎えた」というんじゃなくて、別にそうならなくてもいいんじゃない? そうじゃなかったらどうなる? と聴く人が考えたっていいというか、自由じゃないですか。人の想像力というのは。
――単純な否定ではないという話でお聞きしたかったのはまさにそこで、この作品はつまり、Revoさんが間違った解釈を「否定」して、正解を提示しているということではないんですよね。
Revo 完全に違いますね。親切なフリをして、逆に混乱させてるような感じですが(笑)。新しい情報を出しているように見せかけながら、それを知ってしまうと「自分が旅する世界はこんなに広かったんだ」と痛感して、何が本当なのかわからなくなってしまうような怖さがあると思います。たぶんこのアルバムを聴くと、少し温かい気持ちになれる、いい話が多いと感じるはずなんですよ。だけど、どこかでしこりが残ると思うんですよね。果たして温かい気持ちが、本当にたどり着くべき正解というか、解釈だと思っていいのか、と思えてくる。
――ありがとうございます。次にジャケットやMusic Video(以下MV)についても伺わせてください。まずジャケットはどういうアイデアで決まっていったのでしょうか?
Revo これは常にそうなんですが、まず初回盤と通常盤がある種の対比になれば面白いだろうという考え方があります。同じようなものになってしまってもつまらないので、ひとつのジャケットである世界観を表しつつ、もう一方のジャケットでそれの多面性を出すというか。
――今回のジャケットは特に、初回盤の人物たちが通常盤のほうをのぞき込んでいるという形で、わかりやすく多面性が描かれているように思えますね。
Revo 初回盤を見ると「この人たちが主役です」という感があるんだけれども、別の見方をすると、本当の主役は通常盤の方に描かれている方なのではないかという。いや、もしかすると、デラックス盤の箱の中の×××かもしれないし(笑)。
――対になることによって、どちらが主というわけでもない形でもなくなるわけですね。では先行リード曲である「檻の中の箱庭」のMVに関してはどうでしょうか?
Revo 中身に関してはそこまで細かいことは言ってないかもしれないですけど、基本的にあの路線でいこうって決めたのは僕です。音楽的にも新しいものにしているので、映像も今までと同じ手法でやっても面白くないなと思ったんです。慣れてることをやれば楽なんでしょうけど、別に楽がしたいがためにものを作ってるわけではないですからね。じゃあ、あの音楽に合う映像でどんな新しいことをやれるんだろうって考えた時に、今回はVJ的といいますか、けっこうフロアっぽさを意識した感じになりました。僕の音楽は別に純粋なフロア向けのものになっているわけじゃないんですけど、ちょっとだけフロアの感じがしつつ、ストーリー性のあるものという形になりました。まあ抽象的で、ストーリーをものすごく細かく追うわけじゃないけど、音にがっちりとシンクロしてくるものですね。
――最近のMVでは、「よだかの星」などもそうでしたが、実写以外のアプローチが増えていますね。これは意識しているところがあるんですか?
Revo 少し今は実写に飽きている部分はありますよね。SHのMVは伝統的に実写じゃないといけないという固定概念を崩すというか、もっといろんなやり方があるはずだと思いたい。だからアニメーションだったり人形劇だったりという形が出てきているんだと思います。ただもちろん実写を否定するわけじゃなくて、たぶんまた作ることもあると思いますけど。実写でもやれてないことが沢山あるので。
――なるほど。あと気になることとして、完全数量限定デラックス盤についてもお聞かせください。とにかくファン垂涎の豪華なセット内容になっていますし、パッケージとしても実に凝ったものになっていますね。しかし音源として注目したいのはやはり、Omake Maxiとして「マーベラス小宇宙(仮)」が付属していることです。そもそも2007年の4月1日から、構想8年の問題作と言われる9th Storyとしてファンの間では知られていたわけですが、なぜこれではなく、「Nein」こそが9th Story CDとして発売されることになったのでしょうか。
Revo それは、この世界においての9th Story CDが「Nein」だからです。別の世界においては「マーベラス超宇宙」こそが9th Story CDだったのかもしれませんが。2007年の時点で、みなさんは本来なら知ることができなかった世界を、なぜか垣間見てしまったということですね。
――では今回は、その本来なら知ることができなかったものがマキシCDとして完全数量限定デラックス盤に付属したということですね。しかし2007年に幻視された別の世界の記述では、オープニングナンバーは「即ち…星間超トンネル」であり、さらに「即ち…小惑星を喰らう超紅炎」など他数曲が収録されるとなっていました。たしかにこの2曲も今回のマキシCDに収録されていますが、「他数曲」となっていたということは、さらに未発表の音源があるということになるのでしょうか?
Revo 本来はフルアルバムだったと思うんですけど、今回はそのすべてを入手することができなかったんです。万能じゃないところもありまして。需要のほども謎ですし(笑)。まあ、どうなっているかは実際にデラックス盤を見ていただければわかると思うんですけど、いろいろと不思議な力があって今回の収録曲だけを聴くことが可能になったというわけです。もしこのアルバムが、いや、このアルバムと、やがて発売されるであろうコンサートのDVD/Blu-rayが10万枚売れたら、残りの音源を入手することも可能になってくるかもしれません。10周年記念だけに(笑)。
――なるほど、本来なら知ることができなかったものですから、3曲だけでも収録されるのは驚異的なことですね。ではデラックス盤の内容も含めてですが、この待望の新作「Nein」を、ファンの皆さんにはどういう姿勢で聴いてほしいという思いがありますか?
Revo みなさん各々、思いのままに楽しんでもらえれば幸せです。僕の方から何かを強制することはありません。どのような解釈であろうと、僕は君を否定しない。ですので、もしひとつ願えるなら「君も誰か他の人の解釈を否定しないで楽しんで欲しい」。それぞれが違ってて良いんじゃないでしょうか? 違う場所で生まれて、違う環境で育ったわけですから。でも今同じ音楽を聴いて、よく似た色の寂しさを感じたよね? 人は生きて、生きて、生きて、必ず死ぬ。でも寂しさだけじゃないよね。そこには熱さや、楽しさや、なんだこのミャーミャー電波感や、春のパン祭り感や、全体的になんだこの読めねぇ歌詞感や、からのピラミッドかよ感や、イカれた韻踏み祭り感や、このクソシスコン先輩ダメだ病気だ感や、後輩は後輩で路上で突然「聴いてくれッ!」とか言って歌いだすヤバい奴だ感や、それでもなんか言葉にできないけど感動する感は、よく似た色をしてるんじゃない? 君はこの物語を否定してもいいし、肯定してもいい。この作品の登場キャラクターに限らず、人はいろんな生き方ができると思います。みんな凄い可能性を持っていると思う。変わりたいと本気で願うなら、いつからでも変われると思う。「君の楽しいは誰かの楽しいとは違うかもしれない」でも「誰かの楽しいを否定しなくても君の楽しいは楽しいはずだ」いや「君の楽しいは今よりもっと楽しいはずだ」。願わくばクリエイターとして、僕はそれを、他のエンタメじゃなくて、僕の物語音楽で引き出したい。僕はSHをそういうエンタメにできたら良いなと夢見ています。それが10年駆け抜けてきた今、ふと立ち止まった時に思うことです。その夢は終わりません。君がいるからです。どうぞ、これからも楽しんでください。君の人生は楽しむに値する。Revoも楽しむ、そして頑張る&頑張る!
取材・構成=さやわか